副業・兼業の労働時間通算と割増賃金|「本人任せ」が通用しない実務設計(2026論点)

〜A社8h+B社4hで、どちらかが“未払い”になり得る。通算・深夜・勤務間インターバルまで一気に整理〜


副業・兼業が増えたことで、店舗(飲食・小売)や中小企業の労務で一番揉めやすくなったのが「労働時間の通算」と「割増賃金」です。

現場では、こういう事故が起きます。

  • 本業8時間のあとに副業4時間 → 合計12時間なのに、どちらも「自社だけ見て」残業扱いにしていない
  • 深夜バイト(22〜翌2時)の翌朝に本業 → 通算すると休息が足りないのに、シフトが通ってしまう
  • 本人申告が曖昧で、週40時間・勤務間インターバル・連続勤務のリスクが見えない

そして2025年時点の厚生労働省の整理では、健康確保のための「労働時間の通算」は維持しつつ、割増賃金の支払に関する通算の在り方は見直しが検討されています。つまり、2026に向けて「何が変わるか」以前に、企業はいまのルールで説明できる状態を作っておかないと危険です。

この記事では、現行ルール(厚生労働省の資料・通達ベース)を軸に、2026論点を見据えて現場が迷わない運用に落とし込みます。


複数事業主で働く場合の“通算ルール”とは


● 現行:労基法38条で「事業場が違っても通算」が原則

副業・兼業が「雇用されて働く形(アルバイト等)」である限り、労働基準法38条の考え方により、事業主(会社)が違っても労働時間は通算して扱うのが原則です。

ここで勘違いされがちなのが、「うちは副業先のことは関係ない」という発想です。身体は1つなので、健康確保と法定労働時間(1日8時間・週40時間)の判断は、通算で見られます。


● 旧:自己申告ベースで把握してきた(現場の限界)

厚生労働省の整理でも、他社での労働時間は本人申告等で把握する運用が基本とされています。結果として、申告が曖昧だと「見えない残業」「見えない深夜」「見えない休息不足」が発生しやすく、飲食・小売のようにシフトが動く業態ほど事故ります。


● 2026論点:企業の“把握と健康確保”がより強く求められる方向

2025年の厚生労働省資料では、副業・兼業について健康確保は強化しつつ、割増賃金の通算の在り方は労働政策審議会で検討し結論を得次第、措置を講ずるとされています。

ここが実務の分岐点で、今後「賃金の計算ロジック」がどう整理されても、健康確保(長時間・深夜・勤務間インターバル)を放置できない流れは強まります。


割増賃金の計算ルール


● 36協定の扱い

36協定は「自社で時間外・休日労働をさせるための協定」です。他社分を自社の36協定に“合算して合法化する”ことはできません。

ただし現場では、他社で働いている事実を踏まえて、自社の時間外命令を抑制しないと、健康リスクが一気に跳ねます。ここは「法令上の形式」ではなく、事故と紛争を防ぐための運用設計です。


● 法定労働時間(1日8時間・週40時間)は通算で判定する

通算の基本はシンプルです。

  • A社の労働時間+B社の労働時間=総労働時間
  • 総労働時間が1日8時間・週40時間を超える部分は、法定外労働として整理が必要

厚生労働省の資料では、所定労働時間は「契約の先後」で、所定外は「発生順」で通算する考え方が示されています。現場で重要なのは、細かい計算テクより“通算で超える日が出る”ことを先に潰すことです。


● 割増賃金は「自社が労働させた時間」について支払う発想

厚生労働省の整理では、通算により法定労働時間を超えた時間数のうち、自ら労働させた時間について割増賃金を支払う必要があります。

現場の結論としては、「本業8hのあとに副業4h」なら、副業側が“後段”になりやすく、割増が問題化しがちです。逆に、本業側が後段になれば本業側が問題になります。


● 深夜割増は「自社が深夜に働かせた分」を各社で支払う

深夜(22時〜5時)は、会社が違っても“深夜の時間帯に働かせた”事実は残ります。したがって、各社が自社の深夜帯労働分について割増賃金を支払う設計が必要です。


副業で最も起きやすい違反パターン


● A社8h → B社4h(「どちらも残業ゼロ」に見えてしまう事故)

各社が「自社だけ」を見れば、A社もB社も所定内に見えることがあります。ですが通算すると1日12時間です。

このパターンは、未払い・是正・スタッフ離脱の3点セットになりやすいので、“そもそも組ませない”が最強です。


● 深夜バイト→翌朝勤務(勤務間インターバル崩壊)

副業の典型事故が、深夜で稼いで翌朝に本業です。ここは賃金より先に、健康と安全の問題になります。

勤務間インターバル(勤務と勤務の間の休息)をどう守るかは、2026論点としても“強く見られる側”なので、副業の終了時刻と自社の始業時刻を把握できない運用は危険です。


● 週60時間超(安全配慮義務の争点になりやすい)

本人が「大丈夫です」と言っても、事故やメンタル不調が起きた瞬間に、企業は「把握できたのに放置したか」が問われます。副業は“自発”でも、受け入れて働かせる以上、企業の安全配慮義務の射程に入ります。


● シフトの“隠れ連勤”(月末またぎ+副業で発覚)

月末・月初の繁忙で連勤が伸び、副業も重なると、本人は「休んだつもり」でも通算では休めていないことがあります。ここは勤怠よりシフト設計の負けなので、アラートと前倒し確定が効きます。


企業がしなければならない対応


● 副業申告書の設置

最初にやるべきは「知らなかった」を潰すことです。申告書には最低限、次を入れます。

  • 副業の有無
  • 勤務先・職種(差し支えない範囲)
  • 勤務曜日・時間帯(深夜帯の有無を含む)
  • 直近のシフト(週次で更新できる設計)

ポイントは、本人が申告しやすい導線にすることです。副業を“隠す動機”が残る仕組みだと、制度は形骸化します。


● 労働時間の確認ルート(会社が動いた記録を残す)

確認のやり方は企業規模で現実解が変わりますが、最低限「確認しようとした」ことが残る設計にします。

  • 週次の自己申告(フォーム)+人事のチェック
  • シフト提出(画像でも可)+店長が始業前に確認
  • 同意書を前提に、副業先と情報連携(可能な範囲)

● 勤務間インターバルの適用判断(副業も含めて設計)

勤務間インターバルは「自社だけ」では守れているように見えても、副業を挟むと崩れます。したがって、少なくとも深夜帯の副業がある場合は、自社の早番・朝番を組ませないルールが必要です。


● 過重労働リスクの排除(シフト調整の“拒否権”を持つ)

副業者対応で企業が弱くなるのは、「本人が希望したから」で押し切られるときです。安全配慮義務の観点では、企業はシフト調整の拒否・変更ができる運用にしておく必要があります。


副業者対応の“企業責任”とは


● 問われるのは「未払い」だけではなく「放置したか」

副業・兼業は、割増賃金の論点に見えますが、実務で揉めるのは最終的にここです。

  • 通算すると長時間なのに、何も確認していなかった
  • 深夜明けの勤務を黙認していた
  • 勤務間インターバルを守れないシフトを出し続けた

2026論点で制度が整理されても、企業が「健康確保の観点で何をしていたか」は残ります。だからこそ、今のうちに申告→確認→シフト制御→記録の流れを作っておくのが、最短のリスクヘッジです。


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※本記事は公開時点の情報にもとづいて作成しています。今後の制度変更や運用の見直しにより、内容が変わる可能性があります。

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