【2026労基法改正】副業の労働時間通算で“割増賃金リスク”が増える?企業が先に整える実務対応まとめ

〜「うちは残業ゼロ」の認識ズレを防ぐために、申告・勤怠・就業規則・労使協定を一気通貫で整理〜


「副業している人がいるのは知っているけど、実際の勤務時間は把握できていない」

「本業側では残業させていないのに、“通算”と言われると不安になる」

「副業を原則容認する流れは理解しているが、会社の守備範囲が分からない」

副業・兼業が一般化する中で、“労働時間をどう把握し、どこまで会社が管理するのか”は、多店舗・シフト制の企業ほど避けて通れない論点です。
ここで大事なのは、現時点では制度の方向性が整理されつつある段階であり、施行時期や細部は今後の公表情報で更新され得る、という点です。

実務で押さえるべき骨格はシンプルです。健康確保(安全配慮)の観点では、従業員の働き方を“通算で”見ないと過重労働を見落とします。
一方、時間外労働の計算や割増賃金の支払いは、議論の整理としては「原則として各社が自社の労働時間にもとづいて行う」考え方が示されてきました(この点は今後の整理で表現・運用が更新され得ます)

つまり、企業が狙って整えるべきは次の2点です。

  • 通算で見ないと危ない領域:健康確保、連続勤務、休息、事故リスク、管理職の配慮判断
  • 自社で決めて運用する領域:申告フロー、勤怠設定、時間外の算定ルール、説明責任の設計

本記事では、制度を断定するのではなく、「通算管理が前提になる局面が増える」ことを踏まえ、割増賃金トラブルを未然に防ぐための“実務対応”を一般論として整理します。


副業時間通算が人件費リスクにつながるメカニズム


● “通算で見える化”が必要になる場面が増える

副業・兼業の最大の難所は、会社が把握していない場所で労働時間が積み上がることです。
とくにシフト制では、遅番・早番・深夜帯と副業が噛み合うと、睡眠不足や連続勤務のリスクが高まりやすく、結果として安全配慮の判断が難しくなります。

● 割増賃金トラブルは“支払い”より先に“説明不全”から起きる

割増賃金の論点は、金額そのもの以上に「なぜそうなるのか」を説明できないことで炎上しがちです。
本人は「本業で残業していない」と感じ、会社は「自社の時間だけ見ている」と思い込み、認識がズレたまま運用が続くと、退職時や労務トラブル時に一気に争点化します。

● “他社の労働時間”は、取りにいくのではなく“申告で回す”発想が現実的

他社の勤怠データを常時取得する運用は、個人情報・実務負担の観点から現実的ではありません。
そこで企業側は、本人申告を前提にしたルール設計(申告タイミング、記載項目、虚偽申告時の取扱い、健康確保の面談導線)を作り、監査可能な形で残すのが合理的です。


割増が問題になりやすい典型パターン


● パターン1:本業39時間+副業4時間で“通算43時間”になる

よくある誤解が「本業が40時間未満だから問題ない」という判断です。
実務の整理としては、健康確保の観点では通算で43時間という“負荷”が見えます。割増賃金の扱いは、議論の整理としては「各社が自社の労働時間にもとづいて算定・支払い」を基本線としつつ、トラブルになりやすいのは“会社として何もルールがない状態”です。
そのため、このタイプは賃金計算の前に、申告・把握・説明の仕組みを整えることが最優先になります。

● パターン2:本業40時間+副業2時間(深夜帯)で健康面のリスクが顕在化する

時間外の有無だけでなく、深夜帯の副業が重なると、睡眠不足・事故・メンタル不調の確率が上がります。
結果として、会社は「時間外の算定」より先に、安全配慮の観点からの注意喚起・面談・シフト調整が必要になる場面が増えます。

● パターン3:休日労働と組み合わさり“休息が消える”

週の休みが実質的に取れていない状態が続くと、短期的には回って見えても、長期的には離職・事故・労災・メンタル不調につながりやすくなります。
このパターンでは、就業規則の禁止規定を強くするより、「休息が確保できない働き方は見直し対象」という基準を明文化し、運用で早めに止血できる設計が効きます。


未然に防ぐために必要な社内制度


● 副業申告制は“許可制”より“把握の制度”として設計する

副業を頭ごなしに止める設計は、現在の社会的な流れと衝突しやすく、運用も破綻しがちです。
ポイントは、申告制の目的を「禁止」ではなく「把握と安全配慮」に置くことです。申告項目は、少なくとも「副業先の業種」「勤務曜日・時間帯」「深夜の有無」「想定時間」を押さえると実務が回りやすくなります。

● 月次の労働時間申請は“監査できる形”で統一する

月次の申請は、回しやすさと証跡が命です。
フォーム・紙・システムの形式は問いませんが、締切日・提出先・未提出時の扱いを固定し、監査可能な運用にします。ここが曖昧だと、結局「把握できていない」と同じ状態に戻ります。

● 本人責任の明確化は“丸投げ”ではなく“役割分担”として書く

会社が負う安全配慮と、本人が負う自己申告の責任を、線引きしておくことが重要です。
例としては、「副業時間の正確な申告」「健康上の支障がある場合の申出」「虚偽申告時の取扱い」を明文化し、ルールとして運用します。

● 割増負担の考え方は“社内で揉めない言い方”にしておく

このテーマは、断定的に書くほど揉めやすい領域です。
実務では「自社の所定労働時間・時間外算定にもとづき、法令に従って処理する」など、一律に決め打ちせず、運用可能な表現にしておくと安全です。必要に応じて、雇用契約書・賃金規程・運用ルール(社内フロー)に落とすのが現実的です。


副業通算を軽視した場合に起こりやすい経営リスク


● 割増賃金の未払い“と言われる”リスク

副業が絡むと、金額の正否以前に「会社が把握しようとしていなかった」ことが問題視されやすくなります。
退職時の請求や相談窓口への申告で争点化しやすいため、証跡が残る申告フローが防波堤になります。

● 法令違反と評価されるリスク(運用不備が火種になる)

副業の働き方が原因で過重労働状態が継続しているのに、会社が何の対応もしない場合、管理体制そのものが問われる可能性があります。
制度の結論がどう整理されるかに関わらず、「把握し、必要に応じて止める」運用は企業防衛として重要です。

● 過重労働・安全配慮の問題が、人件費より重い損失になる

事故・労災・メンタル不調は、短期の人件費より重い損失になりやすい領域です。
副業がある会社ほど、「健康確保の面談」「勤務間の休息」「連続勤務の見える化」を先に整えると、トータルの損失を抑えやすくなります。


就業規則と労使協定を連動させるポイント


● 就業規則は“副業の基本ルール”を一枚岩にする

就業規則で狙うのは、現場が迷わない共通言語です。
「申告」「月次報告」「健康確保のための調整」「虚偽申告時の扱い」など、運用の骨組みを揃えると、管理職の判断が統一されやすくなります。

● 労使協定は“時間外の枠”と“運用前提”を整合させる

就業規則だけを整えても、時間外・休日労働の枠組み(労使協定)が現状とズレていると、運用に無理が出ます。
副業が増える企業ほど、実態に合わせた枠と運用前提を整理し、現場に説明できる状態にしておくことが重要です。

● 最後は“フローと書式”で勝つ

制度は、書面より運用で崩れます。
申告フォーム、提出締切、確認者、面談トリガー(一定時間を超えたら面談)まで落とし込み、継続運用できる設計にすると、リスクは大幅に下がります。


まとめ


副業・兼業が当たり前になるほど、企業側は「自社の勤怠だけ見ていれば十分」という運用が通りにくくなります。
健康確保(安全配慮)の観点では通算で働き方を見える化し、時間外算定・賃金処理は自社のルールとして整備する。
この“二段構え”が、現場を守りつつ経営リスクを抑える実務の落としどころです。

先に整えるべきは、申告制・月次申請・本人責任の整理・就業規則と労使協定の整合、そして運用フローの固定です。
副業を禁止する発想ではなく、見える化とルール化で“揉めない会社”に寄せることが、2026論点に備えるうえでの現実的な一手になります。


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※本記事は公開時点の情報にもとづいて作成しています。今後の制度変更や運用の見直しにより、内容が変わる可能性があります。

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