勤務間インターバル11時間に備える就業規則の書き方【シフト制の実務対応】
〜「遅番→早番」「夜勤明け→日勤」をどう止めるか?勤務間インターバル見直しに向けた就業規則整備ガイド〜
「閉店作業が長引き、退勤は23時すぎになる」
「翌朝は早番なので、7時には出勤しなければならない」
「シフトのやりくりで、実質“9時間インターバル”しか空いていない」
飲食・小売・宿泊・介護・物流など、シフト制・非正規比率の高い職場では、こうした勤務パターンが珍しくありません。
その一方で、近年の厚生労働省資料や審議会の議論では、「勤務間インターバル(勤務と勤務の間の休息時間)をどう確保するか」が大きなテーマになっています。
2025年時点では、勤務間インターバルは「努力義務」として位置づけられていますが、
今後の制度見直しの中で、より強い位置づけ(事実上の義務に近い運用)へとシフトしていく方向性が示されています。
とくに議論の軸になっているのが、
- 前日の終業から翌日の始業までに、一定以上の休息を設けること
- その目安として「11時間程度」の勤務間インターバルを確保すること
といった考え方です。
この流れを前提にすると、2026年前後にかけて「就業規則に勤務間インターバルの考え方をどう書き込むか」が、中小企業にとっても避けて通れない検討項目になります。
勤務間インターバルは、単なる“働き方改革メニュー”ではありません。
本質的には、
- 過重労働の防止
- 睡眠時間・回復時間の確保
- 深夜帯勤務・長時間労働によるミスや事故の抑制
といった、従業員の健康と安全に直結する仕組みです。
一方で、シフト制の現場では、
- 閉店→開店を同じ人に担当させる2交代シフトが多い
- 欠員が出たとき埋められる人が限られている
- 店舗間応援で勤務時間が圧縮されやすい
- アルバイト側の希望で「遅番→早番」になりがち
といった事情もあり、インターバルを意識しないシフト運用を続けると、違反リスクが常態化しやすい構造があります。
そのため、2026年前後を一つの区切りとして、
- 就業規則の条文(ルール)
- シフト作成ルール(運用)
- 勤怠システムの設定(仕組み)
- 店長・SV・管理職への教育
をセットで整えていくことが重要です。
本記事では、とくに「就業規則に何を書いておくべきか」に焦点を当て、勤務間インターバル制度を実務目線で整理します。
- 勤務間インターバル制度とは何か(2026年に向けた見直しの方向性)
- 就業規則に書くべき“必須項目”
- そのまま使える条文化イメージ
- ありがちなNG条文
- 36協定との関係
現場が「運用できる条文」になるよう、ルールと仕組みの両面から見ていきます。
勤務間インターバル制度とは?(2026年に向けた見直しの方向性)
勤務間インターバル制度とは、ひと言で言えば、
「前日の終業時刻から翌日の始業時刻まで、一定以上の休息時間を確保する仕組み」です。
目的はシンプルで、
- 連日の長時間労働による疲労蓄積を防ぐこと
- 十分な睡眠時間・生活時間を確保すること
にあります。
● 勤務終了→次の勤務開始までの休息をどう確保するか
イメージを共有するため、具体例で考えてみます。
- 前日 23:00 退勤
- 翌日 8:00 始業
この場合、勤務と勤務の間にある休息時間は「9時間」です。
一見すると「そこまで短くはない」と感じるかもしれませんが、実際には、
- 退勤後の移動・入浴・食事
- 翌朝の準備・通勤
を差し引くと、睡眠に使える時間はかなり限られます。
そこで近年の議論では、
「前日の終業から翌日の始業までは、原則として11時間程度空けるべき」
という考え方が採用されつつあります。
たとえば「23時退勤」であれば、
翌日の始業は10時以降でなければ、11時間インターバルを確保できないということになります。
● 「努力義務」から、より強い位置づけへ
勤務間インターバルは、現行では「努力義務」として扱われています。
すなわち、「できる限り取り組むことが望ましい」とされるものの、
就業規則に明確な条文がない会社も珍しくありません。
しかし、長時間労働・睡眠不足・健康障害などへの対策が強く求められる中で、
今後は、
- 会社としてインターバル確保の方針を明示すること
- 就業規則に考え方を位置づけること
- 実際のシフト・勤怠と整合性を取ること
が「実質的に避けられない対応」として求められる流れになっています。
● 11時間という基準が採用される背景
「11時間」という数字は、
欧州の労働時間指令などの国際的な基準や、睡眠・生活時間に関する各種調査を踏まえた水準です。
一般的には、
- 睡眠時間として 7〜8時間
- 入浴・食事・通勤・家事などの生活時間として 3〜4時間
を確保するためには、少なくとも11時間程度の連続した休息時間が必要とされています。
とくに深夜勤務や長時間労働の職場では、インターバル不足が
交通事故・ヒューマンエラー・健康障害に直結しやすく、
「休息時間の確保」が安全配慮義務の一部として重視されつつあります。
就業規則に書いておきたい“勤務間インターバル”の必須項目
では、勤務間インターバルについて、就業規則には何を書いておくべきでしょうか。
少なくとも、次の4点は整理しておくと運用しやすくなります。
● インターバル時間(何時間を標準とするか)
まずは、「会社として標準とする休息時間」を明記します。
- 前日の終業から翌日の始業まで、原則として11時間以上
- どうしても確保できない場合は、代償措置を講じる
といった書き方が代表的です。
● 対象となる労働者の範囲
次に、「誰に適用するルールなのか」を明確にします。
実務的には、
- 正社員
- 契約社員
- パートタイマー・アルバイト
といった雇用形態にかかわらず、原則として全従業員を対象とする形が望ましいと考えられます。
● 例外運用と代償措置
繁忙期や突発的なトラブルなど、
どうしてもインターバルをフルに確保できない場面が生じることもあります。
その場合に備えて、
- 例外が認められる条件(緊急対応・災害・設備トラブルなど)
- 例外運用を行う際の承認フロー(所属長+人事など)
- 後日どのような代償措置を講じるか(勤務繰下げ・代休付与など)
を就業規則や関連規程の中に整理しておきます。
● 深夜勤務・夜勤明けの扱い
22時以降の深夜帯や、泊まり勤務を伴う夜勤では、
インターバル不足による健康リスクが一段と高くなります。
就業規則では、例えば次のような方向性を整理します。
- 深夜帯を含む勤務の後は、原則として一定以上の休息時間を確保する
- 夜勤明け当日に、再度勤務させない(明け日=休息日とする)
- 夜勤明けに、短時間の会議・研修・事務作業などを入れない
こうしたルールが明文化されていると、
「現場判断でつい夜勤明けを頼んでしまう」といった事態を防ぎやすくなります。
勤務間インターバルの「条文化」イメージ(就業規則案)
ここからは、実務で使える条文イメージをいくつかご紹介します。
あくまで一般的な例ですので、実際に採用する際は、自社の実情や最新の法令・通達に合わせて調整してください。
● 勤務間インターバル11時間条文(例)
第◯条(勤務間インターバル)
1 会社は、従業員の健康確保のため、前日の終業時刻から翌日の始業時刻まで、原則として連続して十一時間以上の休息時間(勤務間インターバル)を確保する。
2 業務上やむを得ない事由により前項の勤務間インターバルを確保できない場合には、勤務シフトの調整その他の方法により、可能な限り休息時間を確保するとともに、必要に応じて勤務時間の繰下げその他の代償措置を講じるものとする。
● 夜勤明けの休息条文(例)
第◯条(夜勤明けの休息)
1 会社は、夜勤勤務を行った従業員については、夜勤終了後に必要な休息を確保するものとし、原則として夜勤明け当日に継続して勤務させない。
2 業務上の必要その他やむを得ない事由により前項の取り扱いと異なる運用を行う場合には、所属長はあらかじめ人事担当部門と協議し、従業員の健康状態に配慮した勤務調整を行うものとする。
● 例外対応条文(例)
第◯条(勤務間インターバルの例外的運用)
1 災害その他の緊急事態への対応、業務運営上やむを得ない事由により、前条に定める勤務間インターバルを確保できない場合には、所属長はその理由および対応内容を記録し、人事担当部門に報告しなければならない。
2 前項の場合、会社は、当該従業員に対し、勤務シフトの調整、勤務時間の繰下げ、代休の付与その他の方法により、できる限り休息時間を確保するものとする。
ありがちなNG条文と、実務での“つまずきポイント”
勤務間インターバルを就業規則に書き込む際、
「それでは実務的に意味がない」という条文になってしまうケースも少なくありません。
● 「必要に応じて休息時間を付与する」だけの条文
ありがちなものが、
「会社は、従業員に対し、必要に応じて勤務間インターバルを付与することがある」
といった書きぶりです。
このような条文では、
- 何時間を目安に休息を確保するのか
- 原則ルールと例外ルールがどうなっているのか
がまったく分かりません。
会社の裁量だけが強く、従業員の休息確保が担保されない記載になってしまうため、
勤務間インターバル制度の趣旨からは外れてしまいます。
● 対象者が曖昧な条文
もう一つ多いのが、
- 「通常勤務者を対象とする」
- 「正社員を対象とする」
- 「必要と認めた者に適用する」
といった、対象範囲が曖昧なパターンです。
とくにシフト制・非正規中心の会社では、
むしろパート・アルバイト側のインターバル不足が深刻になりやすいため、
対象者を絞りすぎる条文は実務上のトラブルの火種になりかねません。
● 就業規則とシフト・勤怠設定が連動していない
条文だけ立派でも、
- シフト作成時にインターバルがチェックされていない
- 勤怠システムにインターバルアラートが設定されていない
- 店長・SVがインターバル基準をそもそも知らない
という状態では、
勤務間インターバル制度が“紙の上だけのルール”になるリスクがあります。
就業規則を見直すタイミングで、
- シフト作成フロー
- 勤怠システムの設定(インターバルアラート・深夜またぎ判定など)
- 店長研修・管理職研修
をセットで整備することが欠かせません。
勤務間インターバルと36協定の関係
最後に、勤務間インターバルと36協定の関係について整理します。
両者は、似ているようで目的も枠組みも異なる制度です。
- 36協定:時間外・休日労働の上限を定める仕組み
- 勤務間インターバル:勤務と勤務の間の休息時間を確保する仕組み
そのため、
- 36協定を締結していても、勤務間インターバルへの対応は別途必要
- インターバルを確保できないからといって、時間外労働の上限を超えてよいわけではない
という点は、管理職・シフト作成者にしっかり共有しておく必要があります。
実務上は、
- 36協定で定めた時間外労働の上限
- 勤務間インターバルの基準時間(例:11時間)
の両方を満たすようにシフトを組むことが求められます。
就業規則の見直しとあわせて、
36協定の内容・運用と矛盾がないかも確認しておくと安心です。
まとめ|勤務間インターバルは“コスト”ではなく「人を守るインフラ」
勤務間インターバル制度は、
2026年前後の労働時間見直しの中で、確実に重要度が高まっていくテーマです。
とくにシフト制・非正規比率の高い現場では、
- 遅番→早番の連続シフト
- 夜勤明け→日勤の慣行
- 閉店作業・開店準備・荷受けによるインターバル不足
が、健康障害や事故、離職のリスクにつながりやすい状況があります。
就業規則の観点からは、少なくとも次の4点を押さえておくと整理しやすくなります。
- 会社として標準とする休息時間(例:11時間)の明示
- 対象となる労働者の範囲(正社員・非正規を含めるか)の明確化
- 例外運用の条件と、代償措置の考え方
- 深夜勤務・夜勤明けに関する特別ルール
逆に、
- 「必要に応じて付与する」といった曖昧な表現
- 対象者がはっきりしない書き方
- シフト・勤怠と連動しない“紙だけのルール”
は、実務で混乱と不信を招きやすいポイントです。
適切なインターバル運用は、
単なる法令対応にとどまらず、
- 離職防止・採用力向上
- 過重労働リスクの軽減
- ミス・事故の防止
- 現場の「余裕」と「安全」を生む環境づくり
につながる“人を守るインフラ”です。
なお、本記事の内容は、2025年時点で公表されている情報や一般的な実務動向にもとづくものであり、
今後の法改正・指針・通達等により変更となる可能性があります。
実際の就業規則改定にあたっては、最新情報を確認のうえ、社会保険労務士等の専門家へご相談ください。
👉 人事部門導入のご相談は:トナリの人事課長®公式ページ
「トナリの人事課長®」は、中小企業の“人事部門まるごと導入ではなく、実務伴走で仕組みを整えるHR支援サービス”です。
※本記事は公開時点の情報にもとづいて作成しています。今後の制度変更や運用の見直しにより、内容が変わる可能性があります。
※登録はいつでも解除できます