週44時間から40時間へ|残業基準はどう変わる?中小企業の実務モデル解説
〜2026年、残業ラインは“前倒し”で発生する。中小企業の労務管理はどう変わるか〜
2026年の労働基準法改正により、長年「商業・理美容・飲食・娯楽・サービス」など一部業種に認められてきた週44時間特例が廃止され、すべての企業が週40時間労働へ統一される方向で議論が進んでいます。
一見すると「4時間の違い」に見えますが、実務への影響は想像以上に大きく、
- 残業がこれまでより早く発生する
- 月の所定労働時間が約17時間短くなる
- 年間ではおよそ206時間の労働時間差が生じる
- 変形労働時間制での調整が難しくなる
- 固定残業代(みなし残業)の設計を見直す必要が出てくる
- シフト運用全体を組み替えなければならない
といった、労務・人件費・シフトの三方向にインパクトが広がります。
特に、小売・飲食・サービスなどの店舗型ビジネスでは、
- これまで合法だった働かせ方が、2026年以降は違法になる可能性がある
- 「いつも通り」の繁忙期運用が、そのまま残業代の自動増加につながる
- 週40時間基準と勤務間インターバル、連続勤務上限が複合的に効いてくる
といった構造的な変化が避けられません。
本記事では、とくに現場で混乱が起こりやすい「残業基準がどう変わるのか」に焦点をあて、
- 残業時間の計算基準が変わる理由
- 週44時間から40時間に変わることで生じる典型的な残業発生例
- イメージしやすい計算モデル
- 労務管理が難しくなるポイント
- 企業がいまから取るべき具体的な対策
を、人事・労務の実務目線で整理します。
週44時間から40時間に変わると、なぜ残業基準が変わるのか
まずは「なぜ残業の基準が変わるのか」を、所定労働時間と週基準の関係から整理します。
● 所定労働時間の短縮
これまで特例業種では、「1日8時間 × 週5.5日」といった働かせ方も、週44時間の枠内であれば許容されてきました。
しかし、すべての業種が週40時間にそろえられると、
- 1日8.25時間勤務
- 1日8.5時間勤務
- 土曜日の「半日+数時間」勤務
といった運用は、週40時間を超えた部分がそのまま割増賃金の対象になります。
● 週基準との整合性
よくある勘違いが、「月の総労働時間が基準内なら問題ない」という考え方です。
残業の判断は、
- 1日8時間を超えた部分
- 1週間40時間を超えた部分
- 変形労働時間制を採用している場合の総枠超過分
のいずれかで発生します。週44時間特例がなくなるということは、「週基準での残業発生ライン」が一気に下がることを意味します。
● 繁忙期の対応
売上が伸びる繁忙期ほど、週44時間前提で運用してきた企業では影響が大きくなります。
- 年末商戦の小売
- GW・お盆・年末年始の飲食
- 観光ピーク時期の宿泊・レジャー
こうした時期は、もともと長時間シフトが組まれがちです。
週40時間制への移行後は、同じ働かせ方でも「残業扱いの時間」が増えていくため、人件費と労務リスクの両面から見直しが必要になります。
週44時間から40時間への移行で生じる、典型的な残業発生パターン
次に、現場で実際に起きやすい残業発生パターンを具体的に見ていきます。
● 月初と月末に業務が集中するケース
店舗や事業所では、
- 月初:棚卸し・締め処理・発注調整
- 月末:売上締め・在庫調整・請求対応
といった業務が重なり、どうしても1日あたりの勤務時間が長くなりがちです。
週44時間前提の運用ではギリギリ枠内に収まっていた働き方でも、週40時間時代には、
- 月初の数日だけで週40時間を超えてしまう
- 翌週も同様の運用をすると、連続して残業が発生する
という状態になりやすくなります。
● 2店舗掛け持ちで働くケース
同じ会社の中で、複数店舗を掛け持ちしている従業員も要注意です。
例として、
- A店舗で週30時間勤務
- B店舗で週14時間勤務
という働き方は、合計44時間となり、特例下では説明がついていたケースもあります。
しかし週40時間基準に揃えられた場合は、
- 合計44時間 − 40時間 = 4時間
の部分が、明確に残業時間として扱われることになります。店舗ごとに見ると「それほど働いていない」ように見えても、会社単位で見ると残業が積み上がる、という構造に変わります。
● 変形労働時間制との衝突
1か月・1年単位の変形労働時間制を導入している企業でも、「週40時間」という上限は無視できません。
よくある誤解として、
- 「変形制だから、週40時間を超えてもかまわない」
という考え方がありますが、実際には、
- 期間平均で法定労働時間の枠内に収める
- かつ、勤務間インターバルや連続勤務上限も配慮する
必要があります。週44時間特例がなくなることで、変形労働時間制の設計そのものを見直さなければならない企業も増えていきます。
計算モデルで見る「週44時間の世界」と「週40時間の世界」
ここからは、簡易的な計算モデルでイメージを揃えていきます。
● 週44時間の世界(これまで)
例えば、次のような働き方を考えてみます。
- 1日8.25時間勤務 × 週5日勤務= 41.25時間
- 繁忙日の一部で8.5時間勤務の日がある
特例がある世界では、
- 週44時間の枠内に収まる限り、「所定内労働」として扱える余地があった
- 日ごとの8時間超部分だけを時間外として扱ってきた
という運用も、一定の説明がついていました。
● 週40時間の世界(これから)
同じ働かせ方を週40時間の世界に持ち込むと、状況は一変します。
- 週の総労働時間 41.25時間 − 40時間 = 1.25時間
この1.25時間分は、日ごとの8時間超部分とは別に、「週40時間を超えた分の時間外」としてカウントされます。
つまり、
- 日基準の時間外
- 週基準の時間外
が両方発生しやすくなり、「同じ働かせ方なのに残業が増える」という現象が起きます。
● 残業が発生する“瞬間”をどう捉えるか
2026年以降、残業が発生するタイミングは次の3つで確認する必要があります。
- 1日8時間を超えた瞬間
- 1週間40時間を超えた瞬間
- 変形労働時間制を採用している場合の、期間総枠を超えた瞬間
これらを紙や感覚で管理するのは限界があり、勤怠システム側で自動的にカウント・アラートする仕組みがないと、現場では把握しきれなくなっていきます。
労務管理が一気に難しくなるポイント
週40時間制への移行は、「とりあえず4時間減らす」だけでは乗り切れません。労務管理上の注意ポイントを整理します。
● 月ごとの時間差と所定時間のズレ
月176時間など、週44時間を前提にした所定労働時間をそのまま使っていると、
- 週40時間基準と月の所定時間が噛み合わない
- フルタイムの定義が旧制度のままになっている
- 固定残業代の基礎となる所定時間も全て見直しが必要になる
といった“ズレ”が発生します。週40時間前提で、月160〜168時間程度に再設計する前提で見直しをかけることが重要です。
● 休日と深夜労働の扱い
週40時間制と勤務間インターバル、連続勤務上限が組み合わさると、
- 土曜を「所定休日」としつつ、実態として毎週出勤させている
- 深夜まで勤務した翌日に、早朝シフトを組んでいる
- 週に1日の法定休日が、シフトのやりくりで曖昧になっている
といった場面で、法令違反が発生しやすくなります。
勤務間インターバル(終業から次の始業までに一定の休息を空ける考え方)とセットで考えると、「時間数は足りているように見えても、実際には休めていない」という働き方は、今後ますます許容されにくくなっていきます。
● 人件費の管理が複雑になる
週40時間制への移行は、次のようなコスト増要因を生みます。
- 残業時間の自然増加
- 不足分を補うためのシフト要員の追加
- 年間206時間分の労働力消失への対応
- 管理職・店長の労務管理負担の増加
- 勤怠システムや就業規則の改定コスト
「なんとなく現場で頑張ってもらう」という発想のままでは、採算が合わなくなっていくため、人件費管理と働き方の両面での再設計が欠かせません。
週40時間時代に向けて、企業がいまからやっておくべき対策
最後に、2026年を見据えて中小企業が今日から取り組むべき対策を整理します。
● 所定労働時間の再設定
まずは、所定労働時間を週40時間前提で再設計します。
- 月160〜168時間程度の所定時間に見直す
- フルタイム・短時間勤務の定義を整理し直す
- 変形労働時間制を採用する場合は、カレンダーと総枠を再計算する
これにより、「気付いたら常に総労働時間を超えている」という状態を防ぎやすくなります。
● 固定残業代・変形労働時間制・シフトの総見直し
次に、週40時間制にあわせて、次の3点をセットで見直します。
- 固定残業代:何時間分を含めているか、計算式と時間数を明確化する
- 変形労働時間制:年間カレンダー・総枠・休日数を再計算する
- シフト:週40時間基準で「現場が回るか」を試算し、問題点を洗い出す
ここを先送りすると、2026年以降に「残業代の遡及支払い」「シフトの総崩れ」といった形で跳ね返ってきます。
● 勤怠システムと就業規則のアップデート
最後に、勤怠システムと就業規則を2026年基準に揃えます。
- 週40時間を超えた部分が自動で時間外としてカウントされるか
- 日・週・変形期間ごとの残業をそれぞれ把握できるか
- 勤務間インターバルや連続勤務上限のアラートが設定できているか
- 就業規則に所定労働時間・休日・変形労働時間制・勤務間インターバルの考え方が明記されているか
「就業規則は変えたが、勤怠設定が昔のまま」「逆に、勤怠だけ変えて規程を放置」という状態は、トラブルの温床になります。
必ずセットで見直すことが重要です。
まとめ
週44時間から週40時間への完全移行は、単なる「4時間の短縮」ではなく、企業の働かせ方と人件費構造を根本から見直すタイミングになります。
ポイントを整理すると、次の通りです。
- 毎週4時間、月あたり約17時間、年間では約206時間分の労働枠が消える
- 残業ラインは日・週ともに実質“前倒し”で発生する
- 繁忙期の働かせ方は、そのまま残業代の増加に直結する
- 固定残業代・変形労働時間制・シフト設計の再計算が欠かせない
- 週40時間基準と勤務間インターバル、連続勤務上限の複合管理が必要になる
- 就業規則と勤怠システムをセットでアップデートしないと、違反に気付けない
2026年を単なる「法対応の締切」と捉えるのか、働き方と人件費のバランスを見直すチャンスと捉えるのかで、中長期の採用力・定着率・収益性は大きく変わります。
まずは、自社の所定労働時間・シフト・勤怠設定を週40時間の目線で一度棚卸しし、「どこに無理があるか」「どこを変えれば安全に回せるか」を明らかにするところから、一歩を踏み出してみてください。
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