副業・兼業の労働時間通算ルールに対応する就業規則の書き方【2026対応】

〜“知らないうちに割増賃金が発生していた”を防ぐための、2026年対応の実務ガイド〜


「副業している従業員がいるが、労働時間の申告はしていない」
「実際どれくらい働いているのか分からず、残業の判断が難しい」
「本人は“本業の残業ではない”と言うが、法律上はどう扱えばよいのか…」

こうした悩みは、
とくに飲食・小売・サービス・物流・コールセンターなど、副業との相性が高い業種でよく耳にするものです。

2026年前後の労働時間制度の見直しでは、
副業・兼業における労働時間の通算ルールが、改めて実務上の重要テーマになる方向性が示されています。
その結果、企業側が「知らないうちに長時間労働・割増未払いの状態になっていた」というケースが増える可能性があります。

通算ルールの考え方はシンプルです。

従業員が複数の会社で働く場合、労働時間は合算して判断する。

例えば、一般論としては次のようなイメージになります。

  • 本業 39時間 + 副業 4時間 → 通算 43時間(週40時間超部分は時間外労働の対象となる可能性)
  • 本業 40時間 + 副業 2時間 → 週合計は42時間(時間外の考え方・深夜割増の有無を通算で判断)
  • 本業の休日に副業で勤務 → 休日労働扱いとなるか、連続勤務の上限との関係で問題化する場合がある

2023年のガイドライン等では、副業は「原則容認」という方向性が明確化されています。
一方で、企業側には引き続き、安全配慮義務(健康配慮)と労働時間管理義務が残ります。

つまり、次のような構図になります。

  • 「原則として副業を頭ごなしに禁止してはいけない」
  • しかし「通算で長時間労働となれば、企業側が責任を問われるリスクがある」

このギャップを埋めるために、2026年までに企業が整えておきたいのは、少なくとも次の2点です。

  • ① 副業時間を把握するための“仕組み”
  • ② その仕組みを裏付ける“就業規則上の副業のルール”

とくに就業規則では、次のような観点を織り込んでおくことが重要になります。

  • 副業の事前申告義務
  • 労働時間の月次報告ルール
  • 時間通算の方法と考え方
  • 割増賃金が発生し得るケースの整理
  • 会社間連絡(照会)の扱い
  • 安全配慮義務に基づく必要最小限の制限

これらが整っていない場合、一般論としては次のようなリスクが高まります。

  • 割増賃金の未払い
  • 通算での長時間労働による健康問題
  • 労働時間管理の不備を指摘されるリスク
  • 労基署からの是正指導・行政対応

この記事では、2025年時点で公表されている情報を前提とした一般論として、次のポイントを整理します。

  • 副業時間通算が注目されている背景
  • 就業規則に盛り込むべき「副業のルール」関連条文
  • 実務で使いやすい条文化のイメージ
  • 副業を一律禁止としてはいけないとされる理由
  • 副業 × シフト制で起こりやすいトラブルと、その抑え方

「副業容認の時代に、企業としてどこまで管理すべきか?」を考えるための、
“判断軸とひな形づくり”の素材としてご活用ください。


副業時間通算が注目されている理由


まずは、なぜ今あらためて副業時間の通算が注目されているのかを整理します。

● 割増賃金の判定に直接影響する

労働時間は、原則としてすべての事業場で通算して判断するのが基本的な考え方です。

一般論として、例えば次のようなイメージになります。

  • 本業:週 39 時間勤務
  • 副業:週 4 時間勤務

この場合、通算では 43 時間となり、
40 時間を超えた 3 時間分が、時間外労働の対象とみなされる可能性があります。

また、

  • 本業で 22 時まで勤務 → 副業が 23 時からの勤務

といったケースでは、副業先での勤務が深夜労働(22 時〜5 時)として割増対象となり得ます。

企業側が「当社では深夜残業させていない」と感じていても、
通算すると割増賃金が発生しているケースがあり得る、というのがポイントです。

● 36協定の上限にも影響する

時間外・休日労働に関する36協定の上限(月45時間・年360時間など)を考える際にも、
副業先を含めた労働時間の通算が影響する場面があります。

企業側が副業時間をまったく把握していないと、

  • 通算すると、上限を超える水準の長時間労働になっていた
  • 結果として、企業としての管理が不十分と評価されるリスク

といった問題につながりかねません。

● 企業側の「安全配慮義務」との関係

企業には、従業員の健康と安全を守る安全配慮義務があります。

副業の有無にかかわらず、一般論として次のような状態はリスクが高いと考えられます。

  • 本業 → 深夜の副業 → 翌朝本業、といった連続勤務
  • 通算で睡眠時間がほとんど確保できない状態が継続している
  • 長期にわたって週60時間を超えるような働き方が続いている

通算で見た場合に、こうした状態が続いているにもかかわらず、
企業側が何も把握していない・対応していないとなると、
安全配慮義務の観点から問題視される可能性が出てきます。


就業規則に必要な「副業のルール」条文


次に、こうしたリスクを抑えるために、
就業規則に最低限盛り込みたい「副業に関するルール」を整理します。

● 副業の事前申告義務

第一歩は、「副業を開始する前に申告してもらう」仕組みを就業規則に位置づけることです。

これがないと、企業はそもそも、

  • 副業をしているかどうか
  • どのような仕事を、どの程度の時間で行っているのか

を把握できません。

一般的には、

  • 副業を開始・変更・終了する際の届け出
  • 副業先の名称・業務内容・想定労働時間などの記載

を求める運用が多く見られます。

● 労働時間の月次報告

副業の有無だけでなく、
「どれくらいの時間働いたのか」という実績を定期的に把握する仕組みも必要です。

代表的な方法としては、次のような運用が考えられます。

  • 前月の副業時間を、翌月○日までに申告してもらう
  • Googleフォームや勤怠システムの専用欄で申告を受け付ける
  • 必要に応じて、副業先の勤務証明書や明細の提出を求める

こうした仕組みがないと、
通算でどこまで働いているのかを前提としたシフト・残業判断ができません。

● 時間通算の方法(考え方)の明示

就業規則には、
「本業と副業の労働時間をどのように通算して考えるのか」を明示しておくと、
従業員側にも企業側にも分かりやすくなります。

  • 通算で週40時間を超えた時間は“時間外労働”として扱う
  • 深夜帯の労働は、通算の状況にかかわらず割増対象として扱う
  • 通算の前提となる副業時間は、本人申告を基本とする

といった考え方を条文と運用マニュアルの両方でそろえておくイメージです。

● 割増賃金が発生するケースの整理

通算の結果、どのような場合に割増賃金の対象となり得るのかを整理しておくことも重要です。

  • 通算で週40時間を超えた場合(時間外労働)
  • 22時〜5時の深夜帯に勤務した場合(深夜割増)
  • 本業の法定休日に副業を行い、その影響で健康・安全が損なわれるおそれがある場合

実際にどの範囲で割増が発生するかは、
就業形態・契約内容・今後の制度詳細等によって変わり得る部分があるため、
最新の情報を踏まえたうえで社内ルールを整理していく必要があります。


条文化のイメージ


ここでは、就業規則に記載する際の一般的な条文イメージを示します。
実際の導入にあたっては、自社の実態・最新情報に合わせて調整が必要です。

● 副業申告条文(例)

第◯条(副業・兼業の届出)
1 従業員が他の事業場において就労し、又は事業を行おうとするときは、あらかじめ会社にその旨を届け出なければならない。
2 前項の届出を行った従業員は、届出内容に変更が生じた場合、速やかに会社に届け出るものとする。

● 労働時間通算条文(例)

第◯条(副業時の労働時間の管理)
1 従業員が他の事業場において就労する場合、会社は、当該事業場における労働時間について、従業員の申告に基づき把握する。
2 前項の労働時間と会社における労働時間とを通算した結果、法定労働時間を超える部分が生じたときは、その部分について時間外労働として取り扱う。

● 会社間連絡の扱い条文(例)

第◯条(他事業場との連絡)
1 会社は、副業に係る労働時間の確認その他労働時間管理上必要がある場合、従業員の同意を得たうえで、当該副業先の事業場と必要な範囲で連絡を行うことができる。
2 従業員は、前項の連絡に必要な範囲で、副業先の名称、連絡先その他会社が求める事項を会社に提供するものとする。


副業を一律禁止してはいけないと言われる理由


次に、「副業を就業規則で全て禁止してしまえばよいのでは?」という疑問について、
近年の一般的なガイドラインの流れを踏まえて整理します。

● 社会的流れは「原則容認」へ

人材の流動化・キャリアの多様化・収入補完ニーズなどを背景に、
副業・兼業を一定の条件のもとで認めていく方向性が示されています。

そのため、
一律に「副業は禁止」と定めることは、原則として適切ではないとされる流れが強まっています。

● ただし「安全配慮義務」は残る

一方で、企業には引き続き、従業員の健康を守る責任があります。

通算で見たときに、

  • 明らかに睡眠時間が不足している
  • 心身の不調が顕在化している
  • 本業の業務に支障が出ている

といった場合には、
安全配慮義務の観点から、副業の制限や調整を検討せざるを得ないケースも想定されます。

● “業務に具体的な支障がある場合のみ”制限対象

副業を制限する場合は、あくまで「必要最小限」であることが重要です。

  • 本業の機密情報や競業との関係で重大なリスクがある場合
  • 通算の労働時間から見て、明らかに健康を害するおそれがある場合
  • 実際に業務遂行に具体的な支障が生じている場合

など、
客観的な理由に基づき、ケースバイケースで対応するスタンスが求められます。


副業 × シフト制で起こりやすいトラブルと抑え方


最後に、一般論として、
シフト制の職場で副業と組み合わさったときに起こりやすいトラブルと、
その抑え方の方向性を整理します。

● 典型的なトラブル例

  • 本業の遅番 → 副業の深夜勤務 → 翌朝早番といった「実質ほぼ連続勤務」
  • 副業が理由で遅刻・欠勤が増え、本業の現場に負担がかかる
  • 副業時間の申告が過小・虚偽であったことが、トラブル発生後に判明する
  • 副業の存在を隠されており、結果として割増賃金やインターバルの管理が不可能になっていた

● 実務で取り得る対策の方向性

  • 副業開始時・定期的な事前申告フォームの運用
  • 前月分の副業時間を提出させる月次報告制度の導入
  • 本業・副業を通算した勤務状況を確認する健康管理面談の実施
  • 就業規則・シフトルールで「遅番 → 副業 → 早番」の連続を禁止する運用
  • 必要に応じて、副業先との連絡やシフト調整を行うための社内フローの整備

こうした仕組みを整えることで、
「副業だから自己責任」というあいまいな状態から、企業として説明できる運用へ近づけていくことができます。


まとめ|副業は「禁止」でなく「ルールを明確にして運用」へ


副業・兼業は、原則容認の流れが加速する一方で、
労働時間の通算・割増賃金・安全配慮義務といった観点から、
企業に求められる対応レベルはむしろ高まっています。

とくに、2026年前後の制度見直しを視野に入れると、
企業として整えておきたいポイントは次のとおりです。

  • 副業の事前申告制度
  • 労働時間の月次報告制度
  • 本業・副業を通算して考えるルールの明確化
  • 割増賃金が発生し得る典型パターンの整理・共有
  • 必要に応じた他社との連絡、健康配慮のための面談・指導の枠組み

これらを就業規則上の「副業のルール」と社内運用の両方に反映することで、

  • 割増賃金の未払いリスク
  • 通算での長時間労働
  • 労働時間管理の不備
  • 従業員との認識ズレ・トラブル

を着実に減らしていくことができます。

重要なのは、
「副業を禁止するか、全面自由にするか」という二択ではなく、
「副業を前提としたうえで、どうやって健康と法令順守を両立させるか」という発想です。

本記事の内容は、ブログ公開時点の公表情報にもとづいた一般的な整理であり、
今後の制度変更や運用方針の見直しにより、必要な対応が変わる可能性があります。
実際に就業規則を改定する際は、最新の情報を確認のうえ、社会保険労務士等の専門家へのご相談をおすすめします。


👉 人事部門導入のご相談は:トナリの人事課長®公式ページ

「トナリの人事課長®」は、中小企業の“人事部門まるごと導入ではなく、実務伴走で仕組みを整えるHR支援サービス”です。


※本記事は公開時点の情報にもとづいて作成しています。今後の制度変更や運用の見直しにより、内容が変わる可能性があります。

ブログ一覧に戻る

人事ニュースを受け取る

※登録はいつでも解除できます