労基法改正×副業管理の最新ルール|中小企業が取るべき具体策
〜“副業解禁の波”に飲まれず、自社を守りながら活かすための実務ガイド〜
「求人票で“副業OK”と書かないと、応募が集まらなくなってきた」
「副業を容認したものの、労働時間管理や残業代の扱いがふわっとしたままになっている」
「2026年の労基法改正で“副業・兼業の管理が厳しくなる”と言われても、具体的に自社の何を変えればいいのか分からない」
こうした声は、ここ数年で一気に増えてきました。
終身雇用・年功序列が崩れつつあること、物価上昇・賃金への不安、スキルやキャリアを複線化したいニーズ――。
こうした背景から、政府も企業も「副業解禁」の方向に舵を切っています。
しかし、現場の人事・経営から見れば、
- 副業先を含めた労働時間の通算
- 割増賃金の扱い
- 勤務間インターバル・連続勤務制限との関係
など、頭を抱えるテーマが一気に増えました。
2026年の労基法改正は、
- 副業・兼業を前提とした新しい労働時間管理
- 過重労働を防ぐための健康確保のルール強化
という方向で進んでおり、「副業は社員の自由」で済ませるのは、徐々に難しくなっていきます。
この記事では、
- 副業を許可する企業が増えている背景
- 副業管理として“最低限ここまではやるべき”ライン
- 2026年改正で顕在化しやすい新たなリスク
- 中小企業が今すぐ着手できる3つの準備
を、人事・経営の実務感覚に沿って整理します。
「副業を止めるか・放置するか」の二択ではなく、“どう管理し、どう活かすか”を考えるための土台作りとしてお読みください。
副業を許可する企業が増えている背景
まずは、なぜここまで副業容認が進んだのか。背景を押さえると、「どこまで付き合うべきか」の判断軸が見えてきます。
政府の後押し
近年、政府は、
- モデル就業規則から「副業禁止」の文言を削除
- 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定・改訂
- “新しい資本主義”や人的資本投資の文脈で、副業をポジティブに位置づけ
といった取り組みを進めてきました。
背景には、
- 労働人口が減る中で、一人ひとりの経験・スキルを最大限活かしたい
- 企業に依存しないキャリア形成を広げたい
という政策的な狙いがあります。
結果として、企業側も
「副業NGです」とは言いづらい空気
が生まれ、「原則OK、条件付きで制限」というスタンスが主流になりつつあります。
採用難対策
中小企業・ベンチャーの現場感覚としては、副業容認は“採用競争で負けないためのチケット”でもあります。
- 求人サイトで「副業OK」「リモート可」と書いていないだけで、検索フィルタから外されてしまう
- 若手・ハイスキル人材ほど、「副業可」「複業前提」の会社を好む
という傾向が強まり、
「副業不可=魅力のない会社」
と見なされるリスクすら出てきました。
そのため、
- 採用広報として副業容認を掲げつつ
- 一方で、労働時間管理や守秘義務・競業のリスクをどう制御するか
が、経営課題として浮上しているわけです。
スキルシェアの普及
副業の中身も変化しています。
- 昔のイメージ:アルバイト的な“ダブルワーク”
- 今の主流 :専門スキルを活かした“スキルシェア型副業”
たとえば、
- エンジニア・デザイナー・マーケターが、週1〜2日レベルで他社のプロジェクトに参画する
- 人事・労務・経理・法務が、顧問・スポット相談として関与する
など、本業で培ったスキルを他社に提供するスタイルが増えています。
この流れは、
- 社員の成長
- 企業間のノウハウ循環
という観点ではプラスですが、労働時間管理・情報管理の面では難度が上がるのも事実です。
副業管理の“最低限のライン”
では、法改正を待たずとも、現時点ですでに“最低限やっておくべき”管理ラインとは何か。
月間労働時間通算
まずは、月単位での総労働時間を把握する仕組みです。
- 本業での労働時間(残業・休日勤務を含む)
- 副業での想定労働時間(本人申告ベース)
を合わせて、
「この人は1か月トータルで、だいたい何時間くらい働いているのか?」
を、人事・上長が把握できる状態にしておくことが重要です。
理想は日・週単位での通算ですが、まずは“月間ベースで過労死ラインに近づいていないか”を確認できるだけでも、リスク管理としては大きな前進になります。
休日勤務の扱い
副業管理で見落とされがちなのが、休日の実態です。
- 本業では「週1日の法定休日」を与えている
- しかしその日、本人は副業先でフル勤務している
というケースでは、
- 法定休日の与え方としては形式上セーフでも
- 実態としては「休みなし」に近い働き方
になっている可能性があります。
最低限、
- 副業申請の際に「本業の休日に働くかどうか」を確認する
- 月間で「完全オフの日」がどれくらいあるかを把握する
といった観点を入れないと、“紙の上では休んでいるが、実際には休めていない社員”を見落としやすくなります。
健康管理
副業管理は、賃金計算だけの話ではなく、健康管理・安全配慮義務の問題でもあります。
- 慢性的な長時間労働
- 睡眠不足
- 生活リズムの乱れ(本業日勤+副業夜勤など)
は、
- メンタル不調
- 業務中の事故・ヒューマンエラー
- 長期離職・離職率の上昇
と直結します。
最低ラインとして、
- ストレスチェックや健康診断の結果
- 面談時の様子・勤務態度の変化
- 遅刻・欠勤・ミスの増加
などに「副業の影響がないか?」という視点を乗せることが大切です。
単に「残業時間」だけを見るのではなく、“働き方全体の負荷”を人事として把握する姿勢が求められます。
2026年改正で生まれる“新リスク”
2026年の労基法改正は、副業・兼業をめぐる新たなリスクの“可視化”を加速させます。
割増賃金未払い
通算や改正の議論が進むほど、企業側の未払いリスクが問われやすくなります。
例えば、
- 「副業だから割増はいらないと言っていた」
- 「本人の希望で、時給は据え置きにしていた」
といった運用は、監督署や裁判の場ではなかなか通用しません。
特に、
- 深夜帯の勤務
- 祝日・週末中心の勤務
- 長時間のシフト勤務
が副業に集中している場合、本業・副業ともに割増賃金の扱いが問われるリスクがあります。
過労死ラインの問題
長時間労働対策のキーワードである、
月80時間超の時間外・休日労働(いわゆる「過労死ライン」)
は、本来“総労働時間”で考えるべき指標です。
例えば、
- 本業:時間外40時間
- 副業:実質40〜60時間
となれば、トータルでは軽く80時間を超えることも十分あり得ます。
2026年以降は、
「本業だけ見ればセーフだった」という言い訳は通用しにくくなる
と覚悟しておくべきです。
重大な健康障害や死亡事故が起きた場合、
- 会社は副業の有無・総労働時間を把握しようとしていたか
- 何らかの健康確保措置を講じようとしていたか
が厳しく問われます。
深夜割増の誤計算
副業は、深夜・休日に偏りやすいのも特徴です。
- 本業は日中勤務
- 副業は22時〜翌5時中心
という、典型的な「昼+夜」の二重勤務は、
- 深夜割増の計算
- インターバル確保
- 睡眠時間の確保
の観点から、法改正後により注目されるゾーンです。
深夜手当を付け忘れる、
- “手当込みの固定時給”として処理してしまう
といった誤った運用は、監督署からの是正勧告・従業員からの請求の対象になりやすくなります。
中小企業が今やるべき3つの準備
最後に、法改正を待たずに今から着手しておきたい実務対応を、3つに絞って整理します。
副業規程の改定
第一は、“紙(ルール)”を整えることです。
- 副業・兼業の定義
- 申請・届出の範囲
- 許可制か届出制か
- 競業・守秘義務との関係
- 総労働時間や健康を理由に制限・中止を求める場合の考え方
などを、副業規程あるいは就業規則の中で明確にしておきます。
特に、
- 虚偽申告や申告漏れがあった場合の扱い
- 副業による健康障害・業務支障があった場合の対応
は、後のトラブルを避けるためにも必須です。
「副業はOK」だけで終わっている会社は、2026年までに“管理のためのルール”を整備する必要があります。
勤怠システム連動
第二は、“仕組み(システム)”を整えることです。
- 勤怠システムに「副業あり/なし」のフラグを付ける
- 副業者について、総労働時間の目安を入力できる欄を設ける
- 月間総労働時間・連続勤務日数・深夜時間数に応じてアラートを出す
など、「人事と管理職が、“危ない働き方”を一目で把握できる状態」を目指します。
すべてを完全通算する必要はありません。
“明らかに危険ゾーンに入っている社員”を見落とさない仕組みがあれば、リスクは大きく下げられます。
社員教育
第三は、“人(意識)”を整えることです。
- 副業は本人の自由であると同時に、健康リスクを伴うこと
- 総労働時間が増えれば、パフォーマンス低下・事故のリスクも高まること
- 会社としては、健康と安全を守るために、一定の情報提供や制限をお願いする場面があること
これらを、
- 入社時オリエンテーション
- 副業申請時の説明資料
- 定期的な社内研修
などで、社員とていねいに共有しておく必要があります。
副業は「隠してやるもの」ではなく、
「会社と情報を共有しながら、お互いに無理のない範囲で続けるもの」
というスタンスを浸透させることが、結果的に社員本人を守ることにもつながります。
まとめ
労基法改正 × 副業管理のテーマは、
- 採用・人材活用という“攻め”
- 労働時間・健康・割増賃金という“守り”
がせめぎ合う、難易度の高い領域です。
2026年の改正によって、
- 副業者の総労働時間をどう把握するか
- 過重労働・過労死ラインをどう避けるか
- 深夜・休日の働き方をどう管理するか
は、「やっていればベター」から「やらないと危ない」側へ重心が移っていきます。
この記事でお伝えしたポイントは、次の4つです。
- 副業容認は、政府の後押し・採用難・スキルシェア普及の流れの中にある
- 副業管理の最低ラインは「月間労働時間通算」「休日実態の把握」「健康管理」
- 2026年改正後は、割増未払い・過労死ライン・深夜割増の誤計算が新たな火種になりやすい
- 中小企業は「副業規程」「勤怠システム連動」「社員教育」の3点セット整備が急務
副業を一律に禁止することも、まったく管理せず放置することも、どちらも現実的ではありません。
「社員の挑戦と成長を応援しつつ、会社として守るべきラインはきちんと守る」——
そのためのルール・仕組み・意識づくりを、2026年の法改正をひとつの節目として進めていきましょう。
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「トナリの人事課長®」は、中小企業の“人事部門まるごと導入”を専門とする実務型HR支援サービスです。
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