兼業者の労働時間管理はここが変わる|企業の実務チェックリスト2026

〜「見えない長時間労働」を放置しないための、人事・経営の実務ロードマップ〜


「うちの社員、どうやら別の会社でも働いているらしいが、実際どれくらい働いているかは分からない」

「副業の申請は来ているものの、本業+副業を足した“総労働時間”までは追えていない」

「2026年の改正で“兼業者の労働時間管理が厳しくなる”と聞いたが、自社として何から手をつければいいのか整理できていない」

こうした声は、シフト制の現場を持つ企業だけでなく、ホワイトカラー中心の企業からも確実に増えてきています。

ポイントは、キーワードが「副業」だけでなく、“兼業者”=複数の仕事・雇用を同時に持つ人たちに移っていることです。

例えば、

  • 正社員+アルバイト
  • 正社員+業務委託
  • 契約社員+フリーランス+アルバイト

など、「働き方の組み合わせ」が複雑化する中で、“会社が見ている労働時間”と“本人が実際に働いている時間”のギャップは、年々大きくなっています。

2026年の労基法改正では、

  • 勤務間インターバル
  • 14日連続勤務の禁止
  • 副業・兼業者の健康確保のあり方

などがセットで議論されており、兼業者の労働時間管理は「任意」ではなく、事実上“必須対応”の領域になっていきます。

この記事では、

  • 兼業者の労働時間管理がなぜ難しいのか
  • 2026年対応で「必須化」する作業
  • 兼業者向けの就業規則テンプレ案
  • シフト制企業(飲食・小売など)への具体的な影響
  • プロに相談すべきケース

を、チェックリスト感覚で整理していきます。

「法令解釈の専門家になる必要はないが、実務として何を整えれば“守り切れるか”は分かっておきたい」という人事・経営層向けのガイドです。


兼業者の労働時間管理が難しい理由

まずは、「なぜここまで難しいのか」を分解しておきます。構造が分かれば、対策も見えやすくなります。

勤務証明が出ない問題

最初のハードルが、「勤務実績の証拠が出てこない」問題です。

  • 副業先が小規模店舗で、紙のタイムカードしかない
  • シフトは口頭やメッセージアプリだけで回していて、正式な勤怠記録がない
  • 「業務委託契約」だが、実態はほぼ固定時間での就労になっている

といったケースでは、「総労働時間を通算したいが、そもそも通算する元データがない」という状態に陥ります。

その結果、

  • 本業側は「本人の申告」に頼るしかない
  • しかし本人も、すべての時間を正確に覚えているわけではない

という、“ふわっとした数字”だけが行き交う状況になりがちです。

個人情報の壁

次に立ちはだかるのが、個人情報保護・プライバシーの壁です。

  • 副業先の会社名
  • 具体的な業務内容
  • 勤務時間
  • 報酬額

これらはすべて個人情報であり、本人の同意なく他社とやり取りすることはできません。

また、本人にとっても、

  • 副業は選択の自由に関わる
  • 家計やライフスタイルに関わる

といったデリケートな情報です。

企業としては、「健康管理・労務管理のため」という目的を明示したうえで、

  • 最小限必要な範囲の情報だけを取得し
  • 厳格に管理する

という、情報の“取り扱い方”そのものの設計が求められます。

勤怠情報の一致率が低い

そして実務で一番困るのが、「本業の勤怠」と「副業の勤怠」のズレです。

例えば、

  • 本業の終業時刻:18:00
  • 副業の始業時刻:18:00

という記録になっていても、

  • 実際には移動時間が必要
  • 副業では18:15頃から勤務開始、など“人間的なズレ”が存在する

ことが多く、紙の上ではほぼ連続勤務に見えてしまいます。

また、

  • 本業側は端数切り上げ
  • 副業側は端数切り捨て

といった集計ロジックの違いにより、「合算しても、どうにも辻褄が合わない」事態も頻発します。

これらはすべて、通算管理の精度を下げる要因です。


2026年対応で“必須化”する作業

難しさは分かっていても、2026年を前に「やらない」という選択肢は取りにくくなってきています。ここからは、「最低限ここまではやっておきたい」作業を整理します。

副業申請の義務化

最初の一歩は、「申請フローの義務化」です。

  • 副業・兼業を行う場合は、事前に会社へ申請する
  • 申請内容には、業種・職務内容・契約形態・勤務時間帯・想定労働時間を含める

といったルールを、就業規則・副業規程に明記します。

「許可制にするか・届出制にするか」は各社のポリシー次第ですが、“申告なしに勝手に兼業する”状態は減らすべきです。

提出書類の標準化

次に、提出してもらう書類・情報を標準化します。

  • 副業申請書(紙またはWebフォーム)
  • 勤務実績報告書(過重労働が疑われる場合のみ提出)
  • 同意書(必要に応じて副業先からの情報提供を受けるため)

といったテンプレートを用意しておくと、

  • 社員ごとに「聞くこと・聞かないこと」がバラつかない
  • 人事部内での情報共有・判断がしやすい

というメリットがあります。

ここを曖昧にすると、

  • ある社員には詳細に聞いたが、別の社員には聞いていない
  • 後々「不公平な取り扱い」として問題化する

といったリスクも高まります。

体調・過労リスクの管理

2026年以降、「総労働時間」と「健康状態」をセットで見ることが求められます。

例えば、次のような情報を組み合わせます。

  • 本業の残業時間
  • 副業の申告時間
  • 連続勤務日数
  • 深夜勤務の頻度

これらを踏まえ、

  • 一定のラインを超えそうな社員をピックアップし
  • 上長・人事との面談
  • 業務量・シフトの調整
  • 副業時間の見直し提案
  • 必要に応じて産業医との面接指導

といったステップを踏む仕組みが必要です。

「総労働時間が明らかに危険な水準」なのに、何のアクションも取っていない——という状態は、安全配慮義務の観点から非常に危険です。


兼業者向けの就業規則テンプレ案

次に、「就業規則に何を書くべきか」を簡易テンプレ形式で整理します。

提出義務

まず、提出義務の明文化です。イメージとしては、次のような条文です。

第○条(副業・兼業)

1.従業員は、会社に在籍している間、他の会社等に雇用されて業務に従事し、又は自ら事業を営む場合(以下「副業・兼業」という。)には、あらかじめ会社に届け出なければならない。

2.前項の届出には、副業・兼業の業務内容、就業場所、勤務時間帯、契約形態その他会社が定める事項を記載しなければならない。

このように、

  • 「副業・兼業」の定義
  • 申告が必要な範囲
  • 申告内容

を端的に示しておきます。

虚偽時の扱い

次に、虚偽申告や申告漏れがあった場合の取扱いです。

3.従業員が副業・兼業に関し虚偽の届出を行い、又は会社の指示に反して届出を怠ったことにより、従業員の健康障害、業務遂行への支障その他会社に重大な支障が生じた場合には、就業規則に定める懲戒の対象となることがある。

このように、

  • 虚偽・不申告が健康リスクや業務支障につながること
  • 場合によっては懲戒の可能性があること

を示しておくことで、「申告の重み」を社員と共有できます。

労働条件の変更

兼業の状況によっては、本業側の労働条件を見直す必要が出てきます。

4.会社は、副業・兼業の状況により、従業員の健康確保その他労務管理上必要があると認めるときは、勤務時間、業務内容、配置その他の労働条件を変更することがある。

このような条文を置くことで、

  • 総労働時間が危険水準に達している
  • 明らかに本業パフォーマンスに影響が出ている

といった場合に、会社として“手を打つ根拠”を持つことができます。


シフト制企業への影響(飲食・小売)

兼業者の労働時間管理で、最も影響を受けるのは「シフト制 × 人手不足」業界です。

インターバル確保

飲食・小売では、

  • 本業:早番・遅番・中抜けシフト
  • 副業:別店舗での夜シフト

などが組み合わさり、終業から次の始業までの休息時間(インターバル)が極端に短いケースが生まれやすくなります。

2026年の流れとしては、

  • 勤務間インターバル(例:11時間)の確保
  • 14日連続勤務の禁止

といったルールが強調されるため、

「シフト上は“休み”を入れているが、実態としては他店で連続勤務になっている」

という状態を、どこまで許容するかが問われることになります。

深夜時間の通算

飲食・サービス業では、深夜帯(22時〜翌5時)に兼業するケースも多くなります。

  • 本業:通常時間帯
  • 副業:バー・居酒屋・ナイトワーク

という組み合わせでは、

  • 深夜割増
  • 勤務間インターバル
  • 連続勤務日数

すべてが絡み合うため、「時間数」だけでなく「時間帯」を通算して見る視点が必須になります。

休息時間の確保

シフト制企業が2026年に向けてやるべきことは、次の2点です。

  • シフト作成時点で、「休息時間」「連続勤務日数」のチェックを組み込むこと
  • 「副業あり」の従業員については、申告された副業時間も踏まえてシフト調整すること

「穴を埋めるためのシフト」が、「人をすり減らすシフト」になっていないかを、数字と実態の両面から監査していく必要があります。


プロに相談すべきケース

最後に、「ここまで来たら、社内だけで抱え込まない方がいい」ケースを整理します。

  • 兼業者・副業者が多く、月次の総労働時間の把握だけで手一杯になっている
  • 既にメンタル不調・長期休職・労災などの事案が発生している
  • 2026年改正を前に、就業規則・副業規程・勤怠システムを全面的に見直す必要がある
  • シフト制現場が多く、インターバル・14日連続勤務・深夜勤務が入り乱れている

このような場合は、

  • 社会保険労務士(就業規則・労働時間・健康確保措置に強い)
  • 労働問題を扱う弁護士
  • 勤怠システムに詳しいコンサルタント

などと連携し、

  • 現状の棚卸し
  • リスクの優先順位付け
  • 規程・運用・システムの改修計画の策定
  • 現場への落とし込み・教育

という流れで整えていくのが現実的です。


まとめ

兼業者の労働時間管理は、

  • 勤務証明が出にくい
  • 個人情報の壁がある
  • 勤怠情報が完全には一致しない

という三重苦を抱えた、“難しいが避けられないテーマ”です。

2026年の労基法改正を背景に、企業には少なくとも次の対応が求められていきます。

  • 副業・兼業の申請を義務化し、提出情報を標準化する
  • 兼業者の総労働時間を、「ざっくり把握 → 危険ゾーンだけ詳細確認」の二段階で見る
  • 就業規則に「提出義務」「虚偽時の扱い」「労働条件の変更」を明記する
  • シフト制企業は、インターバル・深夜・休息時間を前提にシフト設計を見直す
  • 自社の手に余るケースは、社労士・弁護士・システム専門家と連携して全体設計を行う

兼業は、社員のキャリア・収入・やりがいを広げるチャンスである一方、管理の仕方を誤ると、健康障害や重大なトラブルを招くリスク要因にもなります。

2026年は、

「兼業は自己責任でどうぞ」から、「兼業も含めて、会社としてどう守り・どう活かすか」

を本気で考える転換点です。

この機会に、自社の就業規則・副業規程・勤怠の仕組みを見直し、社員の挑戦を支えつつ、企業として守るべきラインは確実に守る体制を整えていきましょう。


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※本記事は公開時点の情報にもとづいて作成しています。今後の制度変更や運用の見直しにより、内容が変わる可能性があります。

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