副業・兼業の労働時間通算は“義務化レベル”へ|2026年の詳細ガイド
〜「知らなかった」では済まない時代の、副業時間“見える化”マニュアル〜
「副業している社員がいるのは分かっているが、実際どれくらい働いているかは把握していない」
「本業+副業の“総労働時間”まで会社が見るべきなのか、線引きが分からない」
「2026年改正で“通算義務が強化される”と聞くが、何が義務で、どこまでが努力義務なのか整理できていない」
副業・兼業が当たり前になりつつある中、人事・労務の現場では、「労働時間通算をどう扱うか」が避けて通れないテーマになっています。
これまでも、労働基準法上は、
- 労働者が複数の事業場で働く場合、労働時間は通算する
- 1日8時間・週40時間を超えた部分は「時間外労働」
- 長時間労働による健康障害を防ぐのが、制度の根本目的
という建付けがありました。
しかし現実には、
- 「他社の勤怠まで通算するのは事実上ムリ」
- 「どの会社が時間外・割増を負担するのか分からない」
- 「社員も、他社の勤務時間を細かく申告したがらない」
といった理由から、いわば“制度はあるが、通算はほぼ空文化”という状態になっていた企業も少なくありません。
2026年前後の見直しでは、この「空文化」を放置せず、
- 割増賃金計算としての通算は整理・簡素化しつつ、
- 健康管理としての通算は、実務レベルで義務に近い水準まで引き上げる
という方向性が強まっています。
つまり、残業代の按分計算を会社同士で延々とやり合うのではなく、社員の総労働時間を把握し、過重労働を防ぐ仕組みを整えることが、人事・経営の責任として問われる流れです。
本記事では、
- 通算義務が強化される背景
- 通算判断の具体ルール(どこまで把握すべきか)
- 副業先が複数ある場合の考え方
- 勤怠システムで管理すべきポイント
- 法違反を防ぐために企業が“義務化レベル”でやっておくべき実務
を、チェックリストに近い感覚で整理していきます。
「とりあえず副業OKにしたが、労働時間の“見える化”が追いついていない」という企業こそ、2026年の前に一度読み込んでおきたい内容です。
通算義務が強化される背景(厚労省方針)
まずは、なぜここまで「通算」が重視されるのか、背景を押さえておきましょう。
働き手の増加
政府はここ数年、
- 副業・兼業のガイドライン整備
- モデル就業規則での副業容認
- 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」改訂
などを通じて、副業解禁を後押ししてきました。
その結果、
- 終身雇用・年功序列の前提が崩れ、
- 本業一本では不安な層や、スキル・経験値を広げたい層が、副業・兼業という選択肢を取る
という流れが加速しています。
副業者が増えれば、当然「総労働時間が見えない人」も増えるため、通算・健康管理の重要性はこれまで以上に高まります。
長時間労働対策
日本の労働政策の大きな柱は、依然として「長時間労働の是正」と「過労死の防止」です。
本業単体では“ホワイト”な残業時間に見えても、
- 本業:月40時間の時間外
- 副業:月40〜60時間相当
のように、トータルでは過労死ラインに近づいているケースは珍しくありません。
この「見えない長時間労働」を放置しないため、
- 企業に対して、副業分も含めた総労働時間の把握努力を求める
- 一定のラインを超えた場合には、健康確保措置(面談・業務調整・産業医対応など)を講じる
という方向性が強く打ち出されています。
過労防止ガイドラインとの連動
過労死防止対策大綱や、過重労働対策の各種ガイドラインとも連動し、
- 過労死ライン(時間外80時間/月程度)
- 時間外・休日労働の上限
といった指標は、本業だけでなく、副業を含めて考えるべきものとされていきます。
その意味で、2026年前後の見直しは、
「副業を認めるなら、会社として“総労働時間”をある程度把握しなさい」
というメッセージが、より明確になるタイミングだと捉えるのが妥当です。
通算判断の具体的ルール
では、企業はどこまで労働時間を“通算”して把握すべきなのでしょうか。
どこまで企業が把握すべきか
ポイントは、
- 「秒単位で正確に通算しろ」ではなく、
- 「過重労働かどうか判断できるレベルで把握しろ」
という発想です。
実務的には、次のようなステップが現実的です。
- 副業の有無・内容を申告させる
└ 雇用なのか、業務委託なのか
└ 週あたり・月あたりの想定労働時間
└ 主な勤務時間帯(平日夜・土日中心など)
- 月単位で“総労働時間の目安”を把握する
└ 本業の勤怠データ(残業時間・休日労働時間)
└ 副業時間について、本人からの自己申告(概算)
- 一定ラインを超えそうな場合は、詳細確認+健康配慮措置を講じる
└ 例:総労働時間が月○○時間を超えそうな場合
└ 詳細な勤務実績の提出を求める
└ 面談・業務量調整・副業時間短縮の提案など
このように、「ざっくり把握→怪しい人だけ深掘り」という二段階運用が、通算義務を実務レベルで回す現実的な方法です。
休日・深夜・法定外の扱い
通算判断では、単に総時間数だけでなく、
- どの時間帯に働いているか(深夜・早朝)
- どの日に働いているか(法定休日をどう扱うか)
も重要になります。
たとえば、
- 本業の法定休日に、副業先で長時間働いている場合
本業側は「休みを与えている」という建付けでも、実態としては「休日なし」に近い働き方になっている可能性があります。
また、
- 本業:日勤
- 副業:深夜帯
が続くと、
- 睡眠時間の確保
- 生活リズムの乱れ
といった問題から、メンタル不調や事故リスクが高まります。
企業としては、「時間数」だけでなく、「休日の有無」「深夜偏重」「連続勤務日数」など、“働き方の質”も含めて通算判断する視点が不可欠です。
提出させるべき情報一覧
通算判断に必要な情報を、従業員から無理なく提出してもらうためには、「何を、どこまで求めるか」を標準化しておくことが重要です。
最低限、次の項目を押さえておくとよいでしょう。
- 副業先の社名(または業種)
- 契約形態(雇用・業務委託・個人事業など)
- 主な勤務曜日(平日/土日・祝日など)
- 主な勤務時間帯(例:19:00〜23:00、土日の日中など)
- 1週間あたりの平均勤務時間(目安)
- 1か月あたりの平均勤務時間(目安)
さらに、総労働時間が一定ラインを超えた場合には、
- 勤務実績(シフト表・タイムカード情報等)の提出
- 副業先の就業条件(深夜・休日勤務の有無 など)
を追加で求めるフローを用意しておくと、より精度の高い通算判断が可能になります。
副業先が複数ある場合の対応
副業者の中には、
- 本業+副業A+副業B
というように、三重・四重の兼業をしているケースもあります。
二社通算
本業+副業Aの「二社通算」であれば、
- 本業の勤怠データ
- 副業Aについての申告情報
を組み合わせて、
- 月の総労働時間の目安
- 休日数
- 深夜・早朝勤務の頻度
を把握することは、まだ現実的です。
この場合も、「本業・副業どちらが割増を払うか」より、「総労働時間として危険ゾーンに入っていないか」を軸に判断することが重要です。
三社通算
本業+副業A+副業Bと、三社通算が必要になってくると、個人のスケジュール管理も含めて、かなり複雑になります。
企業としては、
- 本業の立場から、「総労働時間が明らかに過大」と判断される場合には、副業の制限・中止を求めることもあり得る
と、規程で明記しておく必要があります。
また、三社通算になるレベルの働き方を希望する社員には、
- 健康リスク
- 本業のパフォーマンス低下リスク
- 労災・通勤災害などのリスク
を丁寧に説明し、“それでもやりたい”では済まされないラインがあることを共有することが重要です。
不正申告リスクへの対処
副業が複数になるほど、
- 申告漏れ
- 過少申告(実際より少なく申告)
といった不正・誤情報のリスクも高まります。
企業としては、
- 副業申告の義務
- 虚偽申告があった場合の取り扱い(注意・懲戒の可能性 など)
- 健康上のリスクや、労災発生時の責任問題
を、就業規則・副業規程に明記しておくべきです。
また、
- 明らかに体調不良が続いている
- 業務に支障が出ている
場合には、副業の内容・時間について再度確認する権限が会社側にあることも、あわせて規程化しておくと運用しやすくなります。
勤怠システムで管理すべきポイント
通算義務が“義務化レベル”まで高まっていく中で、勤怠システムをどう使いこなすかは重要な論点です。
労働時間の外部インポート
将来的には、
- 副業先の労働時間情報を、一定の形式で「外部インポート」できる機能
が、勤怠システムの標準機能になっていく可能性があります。
現時点でも、
- CSV等での外部データ取り込み
- 手入力での「副業時間」フィールド追加
などを活用すれば、
- 本業+副業の総労働時間
- 休日数
- 深夜勤務時間
を、システム上で“見える化”することは十分可能です。
アラート設定
通算管理を実務として回すうえで最も重要なのが、「人事・上長が“危ない”社員を一目で把握できるアラート」です。
具体的には、
- 月の総労働時間が一定ラインを超えた場合
- 連続勤務日数が一定日数を超えた場合
- 深夜勤務時間が多すぎる場合
などに、
- アラート表示
- メール通知
- ダッシュボード上での色分け
といった形で、視覚的に分かる仕組みを用意しておくと、通算義務を「紙ベースの集計」から解放できます。
休息時間との整合性
勤怠システム上では、
- 終業時刻と次の始業時刻
- 休日・休暇の取得状況
も把握できます。
これらの情報と、自己申告された副業時間を組み合わせることで、
- 勤務間インターバルが確保されているか
- 「休み」とされている日が、実は副業で埋まっていないか
といった休息時間の実態が見えてきます。
通算義務の観点からは、
- 労働時間の合計値
- 連続勤務日数
- 休息時間の確保
の3点を、勤怠システムで一元的にチェックできる設計が理想です。
法違反を防ぐために企業がすべきこと
最後に、「義務化レベル」の通算を求められる時代に、企業が何をしておくべきかを整理します。
- 副業の定義・申告義務・制限条件を、就業規則・副業規程に明文化する
- 副業者の総労働時間を「ざっくり→必要に応じて詳細」の二段階で把握できる仕組みをつくる
- 勤怠システムに、副業時間を記録・参照できるフィールドやアラート機能を設ける
- 三社以上の兼業や、明らかな過重労働が疑われるケースには、健康配慮を優先した面談・業務調整を行う
- 虚偽申告・申告漏れが続く場合の取り扱い(指導・懲戒の可能性)をあらかじめ定めておく
通算義務は、「罰則を避けるためだけの作業」ではありません。
- 過労死・メンタル不調・重大事故
- 生産性の低下・離職の増加
といったリスクを防ぎ、社員の人生と、企業の持続可能性を守るための“安全装置”です。
2026年の改正を前に、
「副業はOKにした。あとは、総労働時間の“見える化”と健康管理をどう整えるか」
という視点で、自社の仕組み・規程・勤怠システムを一度棚卸してみてください。
「通算は現実的にムリ」と諦めるのではなく、“義務化レベル”を前提に、できる限りシンプルで回る仕組みを整えていくことが、これからの人事・労務に求められるスタンスです。
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